SPring-8

中尺ビームラインを使った極小角散乱実験の試み

八木直人,井上勝晶,鈴木拓

SPring-8/JASRI

 

 SPring-8のビームライン20B2は,医学利用R&Dビームラインという名称で建設されたが,SPring-8初の中尺ビームラインであるため医学利用実験以外にもさまざまな利用が考えられる。その一つとして極小角散乱の測定を試みたのでその結果を報告する。

 BL20B2は,SPring-8の蓄積リング棟内に光学ハッチと実験ハッチ(ハッチ1),医学利用棟内の二つの実験ハッチ(ハッチ2と3)を持っている。このうちハッチ1とハッチ2は、約150m離れている。光学ハッチ内にはモノクロメータ下流にTCスリットがある。そこで、実験ハッチ1に精密4象限スリットと試料を置き,ハッチ2の真空パイプ出口にビームストップを置いて極小角散乱を測定した。X線のエネルギーは21keVとした。ビームはTCスリットと精密スリットで水平1mm垂直0.2mmに切った。検出器としては,X線イメージインテンシファイア(冷却CCD付き)もしくはイメージングプレートを使用した。

 下図は,イメージングプレートに記録したカエル骨格筋の極小角散乱パターンである。子午線方向(筋肉の繊維に沿った方向)に基本周期2.2ミクロンで指数付け可能な反射が20次まで観察されている。これらは骨格筋の持つサルコメア構造に由来する反射である。1次反射も鉛のビームストップから十分に離れて観察されており,本実験での極小角分解能は4ミクロン以上と思われる。骨格筋を引き伸ばすとサルコメアも引き伸ばされるが,この際には反射の位置が2.6ミクロンに移動し,各反射の強度も変化した。

 本テスト実験において,BL20B2が極小角ビームラインとして高い分解能を有することが明らかとなった。問題点としては,(1)バックグラウンドの散乱が高い,(2)X線強度が低い,が挙げられる。前者はビームストップを改良することによって大きく改善されると予想される。(2)については、集光光学系を持たない偏向電磁石ビームラインとしては避けられない問題である。現在中尺アンジュレータビームラインBL20XUの建設が進められているが,蓄積リング棟と医学利用棟を結ぶ真空パイプが細いため,極小角のみの測定しか出来ない。これから建設される中尺ビームラインの設計においては,極小角散乱の測定を念頭に置く必要があるであろう。